相続・遺言のこと

相続に関するルールが大きく変わりました

私たちの生活の中で、民法の存在を大きく感じる出来事の一つに相続があります。亡くなった人の権利が「誰に」「どうやって」承継されるのか等を規定するのが、民法第五編の相続法と呼ばれている部分です。
昭和55年以来、実質的な改正がされてきませんでしたが、より現在の社会状況に即した規定とするために、民法及び家事事件手続法の一部が改正され、令和1年7月1日から段階的に施行されました。

民法(相続法)改正について

不動産(土地・建物)を相続したらまず登記

令和3年の改正により、令和6年4月1日から施行される不動産登記法には、相続によって不動産を取得した場合には「一定の期間内に相続登記をしなければならない」と義務化されました。また、一定の期間内に相続登記の申請がされない場合は10万円以下の過料の対象になることも定められました。これまで、登記をすることは不動産に対する自分の権利を他人に主張するものであるとの考えのもと、登記はあくまで任意であり、登記しなければ罰せられるということはありませんでした。

しかし、その弊害として、所有者として登記された人が既に死亡して相続が発生しているにもかかわらず、その相続登記が未了のまま放置され、結果として現在の所有者が不明となった土地・建物が増加することとなりました。それらは災害復旧事業の際には障害になったり、あるいは周辺環境の悪化を招く建物となり、いわゆる「空き家問題」を引き起こす原因になっています。このように所有者が不明で適切な管理のされていない不動産が社会問題となったことなどをふまえ、それらの解消を図るべく相続登記が義務化されることとなりました。

相続登記には、相続関係者の戸籍謄本や除籍謄本、遺産分割協議書等様々な書類が必要になります。そうした書類の収集や作成、登記手続については、登記手続の専門家である司法書士が専門性を活かしてお手伝いいたします。そのほかにも、相続に起因して様々な裁判手続きが必要になることもありますが、司法書士は裁判所提出書類を作成する業務も行います。裁判所提出書類の作成についてもお力になります。また、遺言に関するご相談も我々司法書士におまかせください。

「長期間相続登記等がされていないことの通知」について

改正法について

夫婦間の居住用不動産の贈与がしやすくなったってどういうこと?

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産の贈与があった場合に、贈与時には贈与税の配偶者控除の規定の適用を受ける場合であっても、改正前の相続法においては、贈与された不動産が特別受益財産としての要件に該当していれば、不動産の価格を遺産の価格に組入れ(持戻し)て計算するものとされ、他の共同相続人の具体的相続分との関係で、居住用不動産を取得した配偶者が他の相続財産である預貯金等を取得できないといった事がありました。

今回の改正によって、婚姻期間20年を経過した夫婦間の居住用不動産の贈与については、上記のような持戻しを免除する贈与者の意思があったものと推定されることとなりました。これによって、相続時に具体的な相続分を計算する際に、夫婦間で贈与された不動産の価格を相続財産に含めない場面が増え、結果として、預貯金を相続できることが多くなります。たとえば、贈与された居住用不動産の価格が相続財産の大部分を占めるような場合であっても、預貯金に対する権利を有することになり、これまでの「もらいすぎ」といった事を気にせずに、夫婦間の贈与がしやすくなったと言われています。

亡くなった父の預金から急いで葬儀代を払いたいが、遺産分割協議が必要ですか?

これまでは、相続の事実を知った金融機関からは、たとえ葬儀費用や入院費など必要な支払いのためであっても、相続人の一部の者からの請求では被相続人の口座からの出金に応じてもらえず、また、急迫の危険のない場合には裁判所の手続も利用できませんでした。

今回の改正によって、遺産分割協議が未了であっても各相続人が単独で預貯金の中から一定の金額の払出を受けられるようになりました。具体的な金額は以下のようになります。

引出せる金額=相続時の口座の預貯金額×1/3×請求者の法定相続分

あわせて、一つの金融機関からは150万円を超えて支払を受けることはできないという上限も定められています。あくまでも仮払いの制度ですので、遺産分割協議を経ていないうちは、相続人全員が個別に払出請求をしたとしても、全額を引き出せるわけではありませんので、しかるべき時に遺産分割協議をする必要があります。

遺言が作りやすくなったのですか?

自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自書し、押印することが必要でしたが、「財産目録」の部分についてはワープロ(パソコン)で作成したものや不動産の登記事項証明書のコピーでも可能とされました。

ただしそれら財産目録の部分を間違いなく本人が作成したことが分かるように、財産目録の各ページにも署名押印することなどの要件を満たすことが必要です。 全てパソコンで作成できるようになったわけではありませんので、自筆証書遺言の作成の際には、ぜひお近くの司法書士にご相談ください 。

遺言書があれば自分の相続分を超えた部分も保護されますか?

改正前においては、たとえば「相続させる旨」の遺言によって相続人が法定相続分を超えて取得することとなった不動産については、判例上、登記がなくても法定相続分以上の権利を第三者に主張することができるとされていました。しかし、遺言書の存在は第三者には判明しないことが通常であり、先にされた共同相続の登記を信頼した第三者を害する事などが問題視されていました。

そこで今回の改正によって、たとえ「相続させる旨」の遺言があったとしても、その部分については対抗要件を備えていなければ、第三者に対して権利を主張できないこととなりました。

不動産の相続について記載された遺言書が見つかった場合には司法書士にご相談ください。

事例紹介(こんな場合はぜひご相談ください)

相続に関する新しい手続きが始まったと聞きましたがどんな手続きですか?
(法定相続情報証明って何ですか?)

これまで不動産の相続登記手続きや金融機関等での相続手続きの場面では、その度に手続きに必要となるたくさんの戸籍謄抄本や除籍謄本等などを提出しなければなりませんでした。
平成29年5月29日に新しく始まった「法定相続情報証明制度」は、相続人の方が法務局に亡くなられた方の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本等の書類と相続関係を表す「法定相続情報一覧図」等の必要書類を提出すると、登記官がその内容を確認した上で、認証文付きの「法定相続情報一覧図の写し」を無料で必要な枚数分交付してくれる制度です。

この「法定相続情報一覧図の写し」を提出することで、たくさんの戸籍の束の提出を省略することができるようになるなど、相続手続きが簡略化されていくことになります。
「法定相続情報一覧図の写し」の交付の申出は戸籍関係書類の収集をし「法定相続情報一覧図」などを作成しておこなうことが必要ですが、司法書士にご依頼いただくと、戸籍謄本等の取得や法定相続情報一覧図の作成及び法務局への提出などを代理して行うことも可能です。また、相続財産に不動産があり相続登記手続きが必要な場合には、相続登記と合わせて司法書士にご依頼いただくことも可能です。
法定相続情報証明制度でお困りの際には、お近くの司法書士までお問い合わせください。

相続する権利がある者は誰ですか。

遺産を受け継ぐことができる人として、まず法定相続人があげられます。法定相続人とは、法律で定められた相続の権利を有する人で、配偶者と被相続人(亡くなった人)の子(直系卑属)・直系尊属・兄弟姉妹に大きく分けられます。

(1)配偶者

配偶者とは婚姻関係にある夫婦の一方のことで、夫にとっては妻、妻にとっては夫を指し、以下の相続人とともに常に相続人になります。配偶者は婚姻届さえ出ていれば、たとえ別居中でも相続権があります。また、いくら夫婦のような関係にあっても、婚姻届のない内縁関係の場合は配偶者とは認められず、相続人にはなれません。

(2)子(直系卑属)

故人に子がいれば、第1順位で相続人になります。婚姻関係にある男女間の子(嫡出子)も、婚姻関係にない男女間の子(非嫡出子)も相続権があります。また、養子も実子と同様に相続人になります。養子は実親の相続人にもなります(特別養子縁組の場合を除く)。故人よりも前に子が亡くなっていた場合には、孫がその子に代わって相続人になります。この孫のことを代襲相続人といいます。このほか、子が生存していても孫が相続人になるときがあります。たとえば、子が相続欠格とされたり、相続人から排除されたなどの要件にあてはまるときです。

(3)直系尊属

父母、祖父母、曽祖父母などを指します。直系尊属が相続人になれるのは故人に子も孫もいないケースのみです。親等の近い者が優先的に相続人になります。

(4)兄弟姉妹

故人に子も孫も直系尊属もいない場合、その人の兄弟姉妹が相続権を持ちます。故人よりも前に兄弟姉妹が亡くなっていた場合には、甥姪がその兄弟姉妹に代わって相続人になります。なお、兄弟姉妹に代わって相続人になれるのは、甥姪までです。

誰にどれだけの相続分がありますか。

民法では、相続人の範囲の他に、法定相続分についても以下のように定めています。

(1)相続人が配偶者と子のケース

配偶者が全遺産の1/2を、子が1/2を相続します。子が複数いるときはこの1/2を均等に分けます。子が3人いれば子1人あたりの相続分は全遺産の1/2×1/3=1/6になるわけです。配偶者がいなければ(死亡・離婚等)、子のみが全遺産を相続します。

(2)被相続人に子などの直系卑属がいないケース

配偶者が全遺産の2/3を、直系尊属が1/3を相続します。配偶者がいなければ、直系尊属が全遺産を相続します。

(3)被相続人に子などの直系卑属も直系尊属もいないケース

配偶者が全遺産の3/4を、兄弟姉妹が1/4を相続します。兄弟姉妹が複数いるとき、兄弟姉妹の相続分は原則として均等に分けます。ただし、父母の一方が異なる場合の兄弟姉妹の相続分は、父母双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の半分となります。配偶者がいなければ、兄弟姉妹が全遺産を相続します。なお、民法に定める法定相続分は、被相続人に遺言がなく、かつ相続人の間で遺産の分配をめぐる話し合い(これを「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」といいます。)で合意ができなかったときの遺産の取り分について定めたものですので、必ずこの相続分で遺産の分割をしなければならないわけではありません。したがって、被相続人に遺言があれば、遺言による相続分の指定が優先しますし、相続人全員が納得するのであれば、遺産分割協議で例えば長男がすべての遺産を相続するという決め方もできます。(ただし、債務については原則として法定相続分通りに相続されます。)

母が亡くなりました。母親名義の家を相続したいのですが、どのような手続きが必要ですか。

母親が遺言を作成しているかどうかによって、手続きが異なります。母親が法的に有効な遺言を作成していて、そのなかで土地や建物を誰が相続するかについての指定がある場合には、指定された相続人がその土地建物を相続します。その際、自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合には、家庭裁判所で「検認」という手続きを済ませておく必要があります(公正証書遺言の場合には、検認は不要です)。そして、その遺言書と、関係する戸籍や住民票などの書類を揃えて、相続を原因とする所有権移転登記(相続登記)を行います。

これに対して、母親が遺言を作成していない場合は、母親が所有していた土地建物は、いったん相続人全員が法定相続分に基づいて共有することになります。したがって、この状態のまま、戸籍や住民票などの書類を揃えて、相続登記を行うこともできます。もっとも、実際には、土地や建物を相続人全員で共有することはあまりありません。通常は、その土地建物や現金、預貯金などの遺産(相続財産)も含めて、誰が何を相続するか相続人全員で遺産分割協議を行います。そして、協議がまとまったら、その結果を遺産分割協議書に記載し、相続人全員が署名や押印をして、預貯金の解約手続きなどに使用したりします。その際、土地建物については、その遺産分割協議書と、関係する戸籍や住民票、印鑑証明書などの書類を揃えて相続登記を行います。なお、司法書士は相続手続きや不動産登記申請のプロですので、相続登記でお困りの際には、ぜひお近くの司法書士までお問い合わせください。

相続登記は、必ずしなければならないのでしょうか。

令和6年4月1日から相続登記は義務化され、必ずしなければなりません。また、相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないこととされました。

相続登記は「法定相続人全員で遺産分割協議をして、土地建物を相続人の中から取得する人を決める」または、「法定相続分にしたがって法定相続人全員が土地建物を共有する」のどちらかをすることなるでしょう。したがって、遺産分割協議が調わない、相続人の全員が誰であるか判明しないといった場合には、そもそも相続登記を行うことができず、申請期限を経過してしまう可能性があります。そのため、相続登記よりも簡単に不動産について相続の発生を登記する「相続人である旨の申出」をする方法も設けられました。この申し出は「相続人申告登記」と呼ばれ、これを行うと申請期限内に相続登記の申請をしたこととされます。ただし、この「相続人申告登記」は、自分が相続人の一人であることを申告するのみであり、本来の相続登記ではありませんし、また、その後に遺産分割協議を行った場合には、その遺産分割が成立した日から3年以内にその内容を反映させるために登記の申請をする必要があります。
いずれの登記も申請期限と定められた3年の期間を経過してしまうと10万円以下の過料の対象となります。

遺言がある場合とない場合ではどう違いますか。

相続をめぐるトラブルは、遺言書がなかったことが原因となる場合が多くあります。亡くなったAさんには子供も直系尊属もいなかったため、遺産を妻とAさんの兄弟が相続することになりました。兄弟の中には死亡している者もいて、その子供が相続人になっており、調べると法定相続人は30人にも達することがわかりました。

このような子供のいない夫婦の場合、夫が生前に「妻に全財産を相続させる」との遺言書を書いておけば、妻は全財産を誰に遠慮することなく相続できるのです。遺言とは、自分の考えで自分の財産を処分できる明確な意思表示です。遺された者の幸福を考える上でも、遺言は元気なうちにしっかりと書いておくべきです。

正しい遺言を残すにはどうすればよいですか。

将来のトラブルを未然に防ぐためにもぜひ書いておきたい遺言書。ただ、たとえ夫婦でも、同一の書面に二人で一緒に遺言すると無効になります。代表的な遺言の方式には、次のように自筆証書遺言と公正証書遺言があります。なお、遺言は、いつでも遺言の方式にしたがって、その遺言の全部または一部を撤回することができます。つまり、本人が亡くなるまでは、何度でも作り直すことができます。遺言の作成についてお困りの際には、ぜひお近くの司法書士にご相談ください。

・自筆証書遺言

自分で作成できるもので、全文・日付・氏名を自書し、押印することが必要です。内容の秘密保持には適していますが、偽造・変造・滅失・隠匿・未発見の恐れがあります。なお、書き間違えた場合、訂正についても厳格なルールがありますので、できるだけ間違えないように書くか、間違えたら最初から書き直した方が無難です。また、新しく財産目録の部分については、要件を満たせばパソコン(ワープロ)などで作成したものを添付することができるようになりました。

・公正証書遺言

証人二人以上の立会いのもとに公証人が遺言書を作成します。偽造・変造等のおそれはなく、公証人が遺言書作成の手続に関与しますので、後日無効になる恐れも少ないです。また他の遺言方法と異なり、後に家庭裁判所での検認(下記参照)手続が不要となり、遺言中で遺言執行者を定めておけば、不動産の名義変更にも便利な方法です。公証人の費用が必要ですが、原本を公証役場で保管しますので紛失や偽造・変造のおそれがなく、もっとも安全で確実な方法といえます。

・検認

遺言書(公正証書による遺言を除く)の保管者またはこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺書書の形状・加除訂正の状態・日付署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺書書の偽造・変造を防止するための手続きです。遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。なお、司法書士は、この検認手続きの申立書類を作成する業務も行っておりますので、手続きがよくわからない方は、お近くの司法書士にご相談ください。

遺言があまりにも不公平で納得できない場合は。

いざ遺言書を開けてみると、全財産を老人ホームに寄付するというものだった。あるいは相続人のうちの一人だけに土地・建物を相続させると書いてあった。残された者にとってあまりにも不公平な内容だったという話はよく耳にします。そんなときのために、遺留分(いりゅうぶん)という制度があります。遺留分とは、たとえ遺言者の意思が尊重されるとしても、最低限度これだけは相続人に残しておかなければならないという、いわば遺言によっても奪われない相続分のことです。民法では遺留分は次のように規定されています。

(1)兄弟姉妹には遺留分はない
(2)直系尊属のみが相続人である場合は全遺産の1/3
(3)上記以外の場合はすべて全遺産の1/2

もし遺言に納得できないときは、遺言の要件が整っているか、まず、確認すべきでしょう。そして遺留分が侵されていたら、それを取り戻す権利があります。これを遺留分侵害額請求権といいます。これを相手方に請求する事によって、遺留分の侵害額に相当する金銭の支払を求めることができます。遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年、相続開始後10年で時効により消滅しますので注意してください。また、裁判所では、侵害額の支払にあたっては期限が付されることもあります。

生前の贈与・・・特別受益とはなんですか。

生前に被相続人から受けた贈与を特別受益と呼び、生前贈与を受けた者を特別受益者といいます。一定の要件を満たした配偶者間の居住用不動産の贈与等の場合には特別受益に該当しない場合もありますが、特別受益には、次のような事柄が該当します。

(1)遺言によって相続分とは別に遺贈を受けた者
(2)結婚や養子縁組のために費用を出してもらった者
(3)生計の資本として贈与を受けた者

例 店や会社を設立するための資金を親に出してもらった。特定の子供だけが多額の学費を出してもらった。家を建てる資金を援助してもらった等。相続人が何人もいる中で、故人から生前贈与を受けた人と受けなかった人が両方いる場合、これを無視して遺産分割を行っては不公平になり、トラブルの原因になりがちです。そこで民法では、現実に残された財産と、生前贈与された財産を合計したものを相続財産とみなしています。ですから、現実に残された財産があったとしても、生前贈与を受けた相続人には何も受け取るものがないという場合もあります。

死んだ父親と先妻との間に子がいたと判明しました、どうしたらいいですか。

「Aさんの父親が死亡。母は3年前にすでに他界しています。相続人は長男のAさんと妹ですが、妹はすでに結婚して家を出ており、父の残した土地と家はA さんが相続するとの合意がなされています。しかし、Aさんが戸籍謄本を調べると、母との結婚は2度目で、先妻との間に男の子が一人いることがわかりました。ふと、Aさんは以前母がいっていたことを思い出しました。「父さんが先妻との聞で『今後一切迷惑をかけない、子供の相続権も放棄させる』との念書を取っているから大丈夫だ」と・・・。」

このケースでは、先妻に関してはすでに離婚しているので相続権はもちろんありません。しかしその子については、亡くなった父親との婚姻中の子供ですので、法律上は嫡出子の身分を有しており相続権があります。苗字が違ってもなんら影響はありません。また、たとえ子供の相続権を放棄させるとの念書が取ってあっても、法律的には効力がありません。後妻の子であっても、先妻の子であっても相続の上では権利は平等です。このケースでは、Aさんはやはり父親と先妻との間の子に一度会って話し合わなければ何も進まないのです。

父親が亡くなったのですが、明らかに財産よりも借金の方が多いようです。借金は相続したくありませんが、どのような手続きをすればよいでしょうか。

相続人は不動産、現金、株式などの資産だけでなく、借金も相続することになります。そのため、債務の額によっては相続放棄を検討した方がよいでしょう。相続放棄の手続きは、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。なお、3か月では判断ができないような場合には、この期間を延長するよう、家庭裁判所に申し立てることもできます。相続放棄が認められれば、最初から相続人ではなかったものとみなされますので、財産を受け継ぐことは当然できなくなりますが、債務も受け継ぐことはなくなります。

なお、借金を特定の相続人が相続する遺産分割協議を行っても、そのことを債権者に主張することはできません。したがって、遺産分割協議書の中で「私は財産も借金も一切相続しません」と書いて印鑑を押しても、ここでいう「相続放棄」にはならないことに注意が必要です。司法書士は、この相続放棄の申立書や、相続放棄の期間伸長の申立書を作成する業務も行っておりますので、手続きがよくわからない方は、お近くの司法書士にご相談ください。

相続人の中に未成年の子がいます。遺産分割協議を行いたいのですが、何か注意することはありますか。

未成年の子は、原則として単独で法律行為をする能力が法律上認められていません。したがって、その子が成人になるまでは、通常は親権者(父母など)が法定代理人として、さまざまな法律行為を行うことになります。しかし、遺産分割協議についてはそうとはいえません。なぜならば、例えばその子の父親が亡くなった場合、配偶者(母親)と未成年の子が相続人となりますが、母親が未成年の子に代わって遺産分割協議をするとなると、母親の相続分を増やすと子の相続分が減ってしまうというように、お互いに利益が対立する(利益相反)関係になってしまうためです。

そこで、このように、未成年者とその法定代理人とが遺産分割協議を行う場合には、その未成年者の権利を守るために、家庭裁判所に「特別代理人」を選任してもらう必要があります。そして、母親はその特別代理人との間で、遺産分割協議をしなくてはならないということになります。なお、司法書士は、この特別代理人の選任申立書を作成する業務も行っておりますので、手続きがよくわからない方は、お近くの司法書士にご相談ください。

兄が死亡しました。兄は独身でしたので、相続人は姉と弟の私ですが、姉は認知症になっています。遺産分割協議を行いたいのですが、何か注意することはありますか。

認知症の程度にもよりますが、相続人のうちの一人が精神上の障害により判断能力が「常にまったくない」状態の場合には、そのままでは遺産分割協議ができません。しかし、遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるので、その方を除いて遺産分割協議を行っても無効となります。また、遺産分割は財産に関する重要な法律行為ですから、自分の行為が法的にどのような結果を生じさせるのかを理解できる能力(意思能力)が必要となります。したがって、相続人が意思能力を欠いている場合、たとえその方が遺産分割協議書に署名や押印をしていても、そのような遺産分割協議は無効となります。そのため、相続人に意思能力がない場合には、成年後見制度を利用して、家庭裁判所に成年後見人の選任申立を行い、選任された後見人がその相続人の代理人として、遺産分割協議を行うことになります。

ただし、お姉さんにすでに成年後見人が選任されていて、それが弟のあなたである場合、あるいは新たにあなたが成年後見人に選任された場合には、お姉さんとあなたは共に相続人となり利益が対立する(利益相反)関係になってしまいます。そのため、このような場合には、家庭裁判所に申し立てをして、「特別代理人」を選任してもらい、その特別代理人との間で、遺産分割協議をしなくてはならないということになります。なお、司法書士は、成年後見人や特別代理人の選任申立書を作成する業務も行っておりますので、手続きがよくわからない方は、お近くの司法書士にご相談ください。

相続人の中に行方不明の者がいます。どうすればよいですか。

相続人の中に行方不明の人や、生死すらわからない人がいると、遺産分割協議ができず困ったことになります。その場合は、次のような措置を講ずることができます。

・不在者財産管理人を置く

共同相続人の一人が行方不明の場合、他の相続人が家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらうよう申立てができます。不在者財産管理人は、行方不明の相続人の財産の目録を作り、それを保管できる権限を持ちます。また不在者財産管理人は家庭裁判所の許可を得れば、他の相続人と遺産分割の協議をすることができます。

・失踪宣告を申し立てる

行方不明者の生死が7年間不明であった場合、親族等は家庭裁判所に失踪宣告(一般失踪宣告)の申立てをすることができます。失踪宣告を受けた者は7年の期間満了時に死亡したものとみなされ、戸籍にもその旨が記載されます。失踪宣告には船が沈没したり、その他の事故などに遭った者の生死が不明のとき申し立てることができる失踪宣告(危難失踪)もあります。

相続人の中に海外で暮らす者がいます。どうすればよいですか。

この頃では海外に赴任している人も多く、相続が発生したときに、すみやかに相続人全員が集まれるとは限りません。このような場合、その相続人のいる国の日本大使館や領事館等から在留証明書、署名(及び拇印)証明を取り寄せて、相続手続を行うことができます。

・在留証明書

海外で生活する日本人につき相続人としての権利が発生した場合は、外国における現住所を証明する書面を添付して、相続登記申請等をする必要が生じます。その際は、その日本人が海外に在留していることを証明する在留証明書を在外公館(日本大使館、総領事館)に発給申請をします。

・署名(及び拇印)証明

日本では不動産登記申請等で印鑑証明書の添付が必要となります。しかし、日本に住民登録がなければ日本の役場に印鑑登録ができません。この署名(及び拇印)証明は、海外在留日本人が印鑑証明書を必要とする際に、在外公館が、日本での印鑑証明に代わるものとして本人の署名(及び拇印)であることに間違いないことを証明し発行するものです。

私には相続人がいません。私が亡くなった場合、遺産はどうなるのですか。

被相続人に相続人がいない場合(いるかどうか明らかでない場合も含む)、被相続人の債権者、受遺者(じゅいしゃ)、特別縁故者(とくべつえんこしゃ)などの利害関係人からの請求により、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。利害関係人からの請求がない場合は検察官が請求をすることもあります。相続財産管理人選任は2か月公告されます。この間に相続人が現れない場合は債権者・受遺者に対して債権申出の公告を行います。2か月以上の債権申出の期間内に相続人が現れない場合は相続人捜索の公告を行います。6か月以上の公告期間が経過したときに相続人の不存在が確定します。その後3か月以内に特別縁故者からの請求により、家庭裁判所は相続財産の全部又は一部を、特別縁故者に与えることができます。特別縁故者として認められるのは以下の者とされています。(代表例としては内縁の妻や事実上の養子)

(1)被相続人と生計を同じくしていた者
(2)被相続人の療養看護に努めた者
(3)その他被相続人と特別の縁故があった者

特別縁故者がいない場合や、特別縁故者へ相続財産の一部しか与えずに相続財産が残った場合、その財産は国へと帰属します。このように相続人や特別縁故者がいないケースでは財産が最終的に国の所有となってしまいますので、財産を譲りたい人がいるならば遺言書を作成しておくことをお勧めします。なお、司法書士は、この相続財産管理人になることができます。また相続財産管理人選任申立書を作成する業務も行っておりますので、手続きがよくわからない方は、お近くの司法書士にご相談ください。